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こうした子供の姿を見たり聞かされたりるするにつけ、いろいろな玩具との出会い、また絵本との出会いなど、祈る、触れることに力を注いだ私たちの方針が実を結んだと確信いたします。開き直りの「やる気」が生んだ私にとって喜びの記憶です。
ろう学校小学部一年生のときは、寮生活をさせました。二年生では、主人の念願が叶えられ鹿児島市への転勤で同じ屋根の下で暮らすことができました。
寮生活はどうしているだろうかと気をもんでいた入寮の日も浅いころ、祝日と日曜の振替で二泊三日の帰宅が許されました。飛ぶようにして迎えに行きました。川内のアパートまで連れて来ての三日間はアッという間に過ぎ去ったように思えました。
そのときに、他人に子供を預けることの深い意味をこわいほど感じたし、教育の存在意義についてもおぼろ気ながらわかったように思えました。
「可哀想だ」と思ってたいした躾もできなかった子が、あの小さい体で、ふとんや毛布をきちんと畳み、家を出るときは、たどたどしい口調でしたが、「ありがとうございました」と畳に正座し、きちんと手をついて挨拶するのです。まるで人の家にお世話になっているように振舞いました。
あのあどけない無邪気なこの子からは、全く想像もできない変容ぶりに驚くとともに、親として、何とも言いようのない侘しさに襲われ、切ない感情が全身にはしり、子供の姿が涙で曇りました。
「安心しておまかせください」と頼もしく子供を受けとめてくださった、寮母さんのお顔が

 

 

 

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